(2019/04/15)
旅の目的は人それぞれ。ショッピング、観劇、体験型のアドベンチャーなどなど、やりたいことは百人百様であります。先日など、ヨーロッパに棲んでいる友達が、しばしの間ドバイにいると聞いただけで、すぐにファーストクラスを手配して、わずか2日間の旅に出る知り合いがおりました。彼女は着くやいなや「買い物に行きましょう」と大好きなブランド、Van Cleef & Arpelsへ。そこでなんと1千万円近い買い物をします。当然のことながら、店の扱いもVIPになるのは当たり前。ディナーはお店のマネジャーがご馳走してくれましたとさ(笑)。これはこれで、お金持ちのマダムたちが普通にやらかしていらっしゃる愉しい旅のひとつですね。

例えば、旅にお伴するスーツケース。実用的なものがお好きか、多少扱いにくくても歴史あるブランドのスーツケースがお好きか。Globe-Trotterはこうした議論には恰好の素材ではないでしょうか。(Globe-Trotterは1897年に誕生したイギリスブランド。軽量かつ丈夫な素材「ヴァルカンファイバー」を用い、ハンドメイドで生み出されるラグジュアリーなスーツケースの数々は世界中のセレブリティから愛され、英国王室御用達としても有名です。)
世にGlobe-Trotter好きは数多いらっしゃいます。僕の友人にも好き過ぎて、特注品を何点も所有している方もいらっしゃいます。で、銀座のGlobe-Trotter旗艦店の中にある「ザ・クラブハウス」でシャンパン呑み放題……みたいな。Globe-Trotterはクルマで言えば、昔のジャガーみたいな感じ?ダブルシックスとかね。気分損ねると朝からエンジン回ってくれない……(笑)。Globe-Trotterはもっと確信的ですかね。実に使いにくい、いやこういうブランドには使いやすさを求めてはいけないのです。高級ホテルにリムジンで到着した時、トランクからいくつかのGlobe-Trotterが引っ張り出された瞬間、ボーイたちの態度が変わることでしょう(笑)。そこにこそ、そうした人たちの旅心をくすぐるブランド力が潜んでいるのですから。隣りのにいちゃんのRIMOWAとは違うんだぜ~、という心の呟きが聞こえてくるようではないですか。が、ひとたびショーファーやバトラーのいない環境に陥ると悲惨なことこの上ない。あの扱いにくさと言ったら、短気なおじさんなら放り投げてしまいたくなることでしょう。ゆえに、Globe-Trotterを何個も携えて行く旅には、必ずや従者が必要なのです(笑)。昔の貴族方のようにね。

まあ、そこが人それぞれの好みなんですね。僕の友人のGlobe-Trotter好きが駆るクルマはアストン・マーティンです。高価なクルマですが、これがまた客の言うことなど聞いてくれない頑固なマシンなのです。新車で買ったのに、まず販売担当から今後起こるであろう不具合について説明されます(笑)。それに怒ってはいけません。かの友人は「いやあ、さすがに英国車だねえ、世話が焼けるよ、まったく。そこがたまらんのだよ~」と悦に入っておるのでした。そうでなくては、歴史ある古き良きモノは所有などできないのですね。なので、彼の日頃使う脚はメルセデスです。こちらは壊れない、快適、お値段もお手頃、言うことなし。でも、そういう方には完璧過ぎてまったく物足りないツールなのですねえ。

さて、Savoir Faire第一回、とりとめのない話になってしまいましたが、要は、旅も精神論で参りましょうということでしょうか。物質的な満足は求めたらキリがありません。当然のことながら、真の贅沢を味わうためにはハイレベルな環境は必要です。でも、明日の観光の予定は? ディナーはまだあの有名なお店に行ってないぞ! とか、そういうエクスペリエンスもよろしいでしょうが、いまいる場所を確認しながら、地球の上で、いま自分がどこでこの貴重な時間を過ごしているのか――、それを感じるだけでもじ~んと痺れてきますよ。東京であくせく働く同胞たちを尻目に、わたしはいまこんなところで、自由を満喫している! 群れない贅沢を満喫しているのだ!と。そんなほんとに贅沢な旅を探して参りましょう。